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旭川地方裁判所 昭和52年(わ)305号 判決

主文

被告人三名をそれぞれ懲役三月に処する。

被告人三名に対し、それぞれこの裁判確定の日から一年間、その刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、その三分の一ずつを各被告人の負担とする。

理由

(本件犯行に至る経緯)(略)

(罪となるべき事実)

被告人ら三名は、昭和五二年九月二六日午前九時二五分ころから同日午前一〇時四〇分ころまでの間及び同日午後零時五分ころから同日午後二時まえころまでの間の二回にわたり、北海道苫前郡羽幌町南三条三丁目三六番地所在の羽幌営林署二階署長室において、地本傘下の他分会及び羽幌分会所属の組合員ら合計約五〇名とともに、同営林署管理官陶勇(当五一年)及び同署経営課長重野俊夫(当四二年)の両名を取り囲んだうえ、

第一  ほか数名の組合員と共謀のうえ、

一  前記陶勇に対し、被告人傳法及び同植松においてその耳元で数回にわたり呼笛を強く吹鳴し、被告人植松において上体を同人に近づけ、のけぞる同人が後頭部を接している後部の合板製扉を片手で数回強打し、又、同人の腰掛けている椅子の両肘掛けを握つて手前に引き寄せたうえ右後部扉に椅子もろとも数回打ちつけ、被告人傳法及び同植松において同人に背中を向けた格好で同人の左右各大腿部に、次いで被告人植松において同人に向い合う格好で、同人の右大腿部にそれぞれ乗りかかり、被告人植松において前記後部扉に接して椅子に腰掛けていた同人の顔面直前に両手を数回勢をつけて突き出し、同人が思わずのけぞる瞬間、両手を開いてその勢で同人の肩越しに同人が後頭部を接する前記後部扉を強打する暴行を加え、

二  前記重野俊夫に対し、被告人傳法、同佐々木、同植松及び氏名不詳の組合員一名においてその耳元で多数回にわたり呼笛を強く吹鳴し、被告人傳法及び同植松において後部の合板製扉に接して椅子に腰かけていた同人の顔面直前に両手を数回勢をつけて突き出し、同人が思わずのけぞる瞬間、両手を開いてその勢で同人の肩越しに同人が後頭部を接する右後部扉を強打し、又上体を同人に近づけ、のけぞる同人が後頭部を接している前記後部扉を片手で数回強打し、氏名不詳の組合員一名において同人の耳を次いで被告人佐々木において同人の鼻をそれぞれ指でつまんで引張り

もつて、数人共同して暴行を加え、

第二  被告人植松は引き続き同日午後二時すぎころ、同署長室内で単独で重野俊夫に対し、同人の頸部を左腕で押さえつけて、同人を背後の壁に押しつける暴行を加え

たものである。

(証拠の標目)(略)

(弁護人の主張に対する判断)

第一  事実認定について

一  弁護人らは、被告人らは本件公訴事実の如き暴行は一切行なつていない旨主張し、被告人および弁護側の証人の各供述には、右主張に沿うものがあるが、当裁判所は以下の理由により、少くとも判示(罪となるべき事実)記載の行為は十分認定し得ると判断した次第である。

すなわち、本件は(犯行に至る経緯)で認定した如く、組合側が営林署当局者に対し団体交渉と窓口交渉の再開を要求する行動中に生じた事案であり、判示(罪となるべき事実)に沿う管理者側の陶勇、重野俊夫の供述内容は同人らが右各交渉の当事者であること、被害者としての誇張が予想されることなどから、その信用性は、慎重に検討されなければならないことは勿論であるが、

(1) 本件の暴行態様は、耳もとで呼笛を強く吹く、被害者らが後頭部を接している合板製扉を手で強くたたく、被害者が座つている椅子(キヤスター付)ごと後ろの扉に打ちつける、背中を被害者に向けたりあるいは向い合わせで被害者の大腿部に乗りかかる、両手を勢よく被害者らの顔面に突き出し顔の直前で両手を開いて肩越しに後ろの扉を強打する。被害者の耳、鼻を引張るなどというものであり、いずれも日常よく見受けられる直接手拳などで相手の身体を殴打する、あるいは足で相手の身体を蹴りつけ、踏みつけるなどという単純、明快な暴行態様とはその類を異にする複雑にして特異な暴行態様を数種類組み合わせており、これらを作為的に創造することは、犯行が多数の敵性証人ともいうべき組合員環視の中で行われたという、場の特殊性からしても非常に困難なものと言うことができるところ、被害者らの述べる判示(罪となるべき事実)認定の事実に関する供述は、具体的で迫真力に富み、それぞれの暴行を受けた際、被害者らが組合員らの発言に応答しないことに対する被告人らの言動として述べるところの「お前しやべれ」「聞いているのか」「お前耳を引張られて怒るのか、それじや俺鼻引張つてやる」などの言葉と関連させて理解すると、極めて自然なものと理解し得るのであり、加えて、各犯行態様のそれぞれについて、その際の加害者、被害者の格好、位置と後部扉の材質構造、椅子の形状その他更衣庫、書庫、書棚の配置関係などを彼此比較検討してみても、そこに特に不合理不自然な点が見当らないこと。

(2) 本件犯行当日は、ヘルメツトをかぶつたり、腕章や鉢巻をした組合員約五〇名位が広さ約三〇平方メートルの署長室内につめかけ、陶勇と重野俊夫の両名に対し、口々に「窓口を開いて協議しろ、団交をしろ」「俺達を泥棒呼ばわりするとは何事だ」「築別苗畑を廃止しないと言え」などと怒鳴り、あるいは、これに同調して他の組合員が「そうだ、そうだ」「どうしてくれるんだ」などと叫び騒然とした状態であつたことは、被告人三名の当公判廷における供述によつても認められるところ、前記(犯行の経緯)で認定したとおり、当日は九月末の廃止期限を間近に控え、築別苗畑では、連日、日雇い導入、苗木払い出し阻止をめぐる対峙状態が続き、九月二三日(祭日)、二四日(土曜日)、二五日(日曜日)の三日間何らの労使間の接触、進展のないまま迎えた日であつて、九月二一日の如き行為があつた後でもあり、労使間には鋭い緊張関係が横たわり、感情的にも対立していた折から、組合側は、なんとしても、当局側を窓口交渉ひいて団体交渉の場に引き戻そうと焦燥感にかられていた状況下にあつたのである。しかるに、これに対し、陶、重野は犯行当日長時間にわたり、署長室内に留められたにもかかわらず、組合側の要求に応じず、これになんらか応答すれば、かえつて挙げ足を取られるとの配慮からほとんど終始沈黙を守るという挙に出たのであるから、被告人らを含めた署長室内の組合員らが一層焦燥感にかられ、管理者側に対し憎悪の念を抱いたであろうことは想像に難くない。したがつて右のような事情を背景にして考えれば、陶及び重野の供述内容は、その緊迫した客観的状況と騒然とした雰囲気とに十分合致するのに対し、被告人三名および組合側の証人の目撃証言は被告人らの暴行にわたらない程度の誠に控え目な行為があつたにすぎないというものであつてこのような騒然とした雰囲気と緊迫した状況とに全然そぐわない不自然性が認められること。

(3) 証人小川孝一の当公判廷における供述によれば、既に若干触れたところであるが、地本段階でも九月に入つて営林局との間で築別苗畑廃止問題につき団体交渉が持たれたが、これが行き詰まり、その打開策として九月二六日地本は局長交渉を当局に申し入れたところ、同日午後四時ころ営林局は局長交渉の形式を指示して翌二七日組合側の申し入れ通り局長交渉を開きたいと回答して来たこと(なお陶、重野は九月二六日午後被告人三名から暴行を受けた後署長室を出て、警察へ直接赴き、警察での九月二一日の件についての事情聴取を受け終つたのは同日午後五時四〇分ころであり、その後その足で営林局から派遣されてきていた管理者らが詰めている当局側の現地対策本部に行き当日の署長室内の出来事を報告している(陶、重野の証言参照))しかるに翌二七日朝になつて営林局は二六日に羽幌署の署長室内で異常事態が発生したとして突如既に予定されていた局長交渉を取り止める旨通告し、九月二八日になつて、営林局の総務部長は地本の小川書記長と会い、同人に対し、「二六日に羽幌署の署長室内で異常な事態が発生した。軟禁状態で、鼻をねじ曲げられた。椅子に座つている管理者の上に上つて身体的に苦痛を与えた。電話しても話ができないような大変喧騒な状態である。たたくわけではないけれども、至近距離からたたくまねをしている。」と述べ、たたくまねという格好については、小川を相手に総務部長が具体的に実演をしてみせたこと、更に総務部長は、「二六日の羽幌の行動については告訴、告発をしなければならないような状況だ。今後更に詳しく事情を調べて早急に懲戒処分を行ないたいと考えている。こんな状態で交渉をすれば、現地の多くの管理者から辞表が出る。」旨述べたこと、これと前後して同二八日、全林野中央本部の書記長から地本の委員長に電話があり、それは、「林野庁の職員部長から、中央本部の書記長に対し『羽幌署の異常状態に対して、林野庁としては早急に関係者の処分発令を行なう予定だ。その内容は懲戒免職を考えており、対象者は七人ないし八人位だろう。』と通報された。」という内容であつたことの各事実が認められ、右事実によれば本件行為の直後といつてよいこの時期に、当局側はこれまでの態度を急変させ、組合側のなした二六日の営林署署長室内における個々の行為を具体的にあげながら強硬な態度で臨んできているのであつて、十分な打ち合わせの余裕もない時期に架空の事実をもつて当局がこれほど機敏で具体的な反応を示すことは、いささか困難であると考えられ、右事実は、陶及び重野の供述する事実が真実存在したことを強く裏付けるものと言わなければならないこと。

(4) 被告人三名の当公判廷における供述を詳細に検討すると、被告人植松は当日の午後陶勇の座つている椅子の肘掛けに右大腿部を乗せるようにして二回乗つたこと、両手で椅子の両肘掛けの角を持つたことがあること、片手で陶の頭の上四〇センチ位離れた部分の更衣庫扉を二回位たたいたこと、陶から四〇センチ位離れて呼笛を吹いたこと、壁を背にしている重野に対面して壁をたたいたことは間違いないと供述しており、被告人傳法は陶の後ろの更衣庫扉を片手で二回たたいたこと、重野から四〇センチか五〇センチ離れたところで笛を二回吹いたこと、重野の後ろの書庫の扉を片手で二回ぐらいたたいたことは間違いない旨供述しており、被告人佐々木は重野から一メートル位離れて笛を一回吹いたこと、重野の頬のあたりを左手で軽く押して、「ちやんと前を向いて話せ」と言つたことを認める供述をしており、この各供述と被害者らの各供述を対比すると部分的ではあるが暴行の態様に類似する事実を供述していることとなり、このこと自体、被害者らの供述がまつたく事実無根でないことを物語るとともに、分会書記長である証人千代隆久は当公判廷において被告人植松が両手で陶管理官の椅子の肘掛けの両端を持つて前後に揺する(後に上下と訂正)行為があつたこと、他分会の氏名不詳者が重野に対し、こつちへ向けと言いながら同人の耳たぶをつかむということがあつた後、被告人佐々木が左手で重野の鼻付近に触れて正面を向けと押す行為があつたことを供述しているのであつて、弁護側の証人によつても被告人らの述べる行為以上のことがあつたことを窺わせる事実が存在し、被告人らの供述がいかに作為的に暴行にならないようにと控え目になされているかを窺い知ることができること。

しかのみならず、被告人三名及び組合側の証人は口を揃えて組合側よりもむしろ陶、重野が当日いかにも積極且つ意図的に故意に被告人ら組合員に対しつばを吐きかけ、肘で小突きあるいは突き飛ばすなどの暴行、挑発行為に出たかの如く供述するが、既にも触れた如き当日の署長室内の騒然とした状態及び当日までの労使間の感情的にすらなつている緊張関係のもとで組合員らが管理者らに対しとつてきた激しい抗議、要求の行動に加えて、当日陶、重野は朝から他へ出張の予定で、なんとかして早く組合側の追及から逃れて署長室から脱出しようとしていたという事情をも勘案すると、陶、重野が積極的、意図的に故意に右のような挙動をとつたとは到底考えられず、この点からも被告人らを含めた組合関係者の供述にいかに作為的な虚構、誇張もしくは隠蔽があるかを窺い知ることができること。

(5) 証人安西忠厚の当公判廷における供述によれば、当日署長室内において陶から約一・五メートルあまり離れた所で椅子に座つて電話番をしていた管理者側である安西労務係長は、本件犯行当時終始、同室内にいたが、組合員からの抗議の矢面には一切立たされていない事実が認められ、従つて必ずしも組合に対する敵意が強いとは考えられず、当公判廷における訥々とした供述態度からもその供述は、比較的信用性があるとみるべきであるが、同人はその供述において、事件当時組合員らから抗議の的になるのを恐れてほとんどうつ向いていたこと及び付近に多数の組合員がいたことから陶及び重野の受けた行為を全て見た訳ではないが、第一に、被告人傳法及び同植松と思われる二名のものが人垣の間から重野に対し、両手をあわせて突き出し、後部の書庫の扉を叩いた行為を目撃したこと、第二に、午前中、呼笛が二〇回内外強く吹鳴され、午後にはその回数が増えたこと、第三に、午前中、更衣庫か書庫の扉を平手で一〇回位強く叩く音を聞き、午後には、その回数が増えたことの各事実を述べて、被害者らの供述とよく合致すること。

(6) 以上(1)ないし(5)の事実を総合すると、結局陶、重野の供述に具体性と犯行時及びその前後の客観的な状況に合致する合理性と迫真性があるのに反し、被告人三名および組合側証人の供述内容には矛盾が多く信用性が著るしく低いと言わざるを得ない。

二  呼笛でつばを吹きかける行為について

重野は、当公判廷において被告人らが故意に呼笛につばを溜めて重野の顔面に吹きかけたと供述するが、呼笛を吹鳴したために顔面につばがかかつたというのは、呼笛を立て続けに至近距離から強く吹鳴したことの証左ではあつても、逆にこのことから、呼笛の吹鳴にことよせてつばを吹きかけたとは即断し難く、また騒然とした状況で何回も笛を吹鳴されていることからしても、故意につばをかけるために呼笛を吹いた場合とそうでなく単に呼笛を吹鳴した場合と判然と区別し得たか否かいささか疑問が残るところであるので、当裁判所は右の点については、暴行としては証明が十分でないと判断する。

三  被告人植松の単独暴行について

被告人植松が判示第二の態様の暴行を重野に加えた際には、被告人傳法および同佐々木は署長室にいなかつた旨当公判廷において供述しているところ、右両被告人は前述のとおり地本から現地へ派遺された地本執行委員として、いわば責任者的立場で当日の団交再開、窓口交渉再開要求行動に参加し、被告人植松ほか数名の組合員と共謀のうえ、自らからも陶、重野らに不法な有形力を行使しているのであるから、右要求行動継続中に他の共犯者の行う行為については、仮に自身は一時的に署長室の隣室に行つていたなどということがあつても共同暴行者としての責任を免れないというべきであるが、反面被告人らの行為は当初から事前に共謀のうえ暴行を目的として行動を共にしているものではなく、あくまで労使交渉の再開要求を目的とする行動の一環として行動を共にしているものであつて、暴行については現場における共謀関係であるから、基本となつている右再開要求行動が一たん終了すれば、現場共謀もその時点で一応終止符を打つものと考えられ、その後に自分自身は在室していない署長室内で行なわれた他の被告人の行為についてまで共同暴行者としての責任を問われるほどの強い共同意思主体は形成されていないと認むべきであり、被告人傳法と同佐々木の右の点の責任の有無を判断するため、被告人植松の判示第二の暴行の行なわれた時点とその際のその余の被告人らの位置を検討することとする。

第三回ないし第六回公判調書中の証人陶勇の供述部分、証人重野俊夫の当公判廷における供述によれば、被告人植松の前記暴行は、陶と安西が午後二時前ころに、羽幌警察署からの電話による呼出を受け、九月二一日の事件について参考人として警察に出頭するため、署長室から最終的に退室し、重野のみが一時退出を阻止されて残された後に発生し、重野がその後に署長室内にかかつた電話に出た際、電話台に近づいた被告人植松によつて行なわれたものであることが認められるが、その時点で、その余の被告人らが署長室内に確実にいたとの証拠は見出せない。むしろ、陶、安西が退室した際、陶が当日の当局側の最高責任者であるだけに、当日の団体交渉再開要求のための団体行動が一応終了したと、被告人傳法、同佐々木や他の組合員が考えたとしても無理からぬものがあると思われるし、また客観的状況としても、陶、安西が退室した時点で当日の団体交渉再開要求行動は一応終了し、爾後の重野に対する組合員による若干の退室阻止は、これまでの行動の余波として、重野に対し何らかの嫌悪の念を抱く組合員の単なる嫌がらせとも受け取れるふしもあるところ、被告人佐々木は当公判廷において、陶の退室した時点で署長室を出て、事務室内で当日の行動終了を築別苗畑へ電話して、その後署長室へ戻つた時は重野は事務室側入口に向つて歩いて来る途中であり、組合員はほとんど残つていなかつたと述べ、被告人傳法は当公判廷において午後二時前ころは、事務室内で休憩しており、署長室に戻ろうとしたら、管理官と安西が退室するところに出会い、管理官らが警察に呼ばれているので、これから出かけるという事情を聞いたため結局署長室に入らなかつたと述べるのであるが、前記事情に照らすと、右両被告人の右各供述は一概に責任免れとして否定し得ないものがあると言わなければならず、以上によれば、被告人傳法、同佐々木は、同植松が判示第二の暴行を行なつた際には現場におらず、しかも共謀関係も断絶しているとの合理的な疑いが残るので判示の如く認定した次第である。

なお被告人植松の判示第二の罪は公訴事実の一部をより軽い事実として認定したものであるから訴因変更の手続を要せず、判示第一の二、及び第二の罪は同一被害者に対する一連の行為で、被告人植松としては犯意も継続していると認められるので、包括して重い暴力行為等処罰ニ関スル法律一条違反の一罪と考えるのが相当である。

第二  可罰的違法性について

次に弁護人らは、仮に被告人三名の本件行為が暴力行為等処罰ニ関スル法律一条の構成要件に該当するとしても、被告人三名の行為は、当局に対し、団体交渉の再開を求める正当な団体行動権の行使の一環としてなされたものであり、しかも当局のこれまでの不誠意な態度に触発された行為で暴行の程度も軽く、犯行時の管理者側の挑発的言動をも考慮すれば可罰的違法性がないというべきであると主張する。

しかしながら本件の共同暴行はその暴行態様の特異性、複雑性、回数の多さ、行なわれた時間の長さとともに、約五〇名の組合員が取り囲むなかで二名の管理者に対し一方的能動的にかなり執拗に行なわれたというものであつて、犯行に至る経緯としても管理者側は本件当日までまがりなりにも五回の団体交渉と多数回の窓口交渉に応じ廃止理由について説明をしていることなどを考慮すると、被告人らの行為の動機、目的が組合員らの強い雇用不安の気持を背景に団交再開を焦る余りのものであり、またその当時の組合側の置かれた立場からすると、当局側の廃止理由についての説明態度に納得のゆかないものを感じたということもまつたく理解できないわけではないなど被告人らに有利な諸事情を十分斟酌してもなお法秩序全体の見地からみて到底許容されるものとはいい難く、刑法上違法性を欠くものではないというべきである。

よつて弁護人の主張は採用できない。

(法令の適用)

被告人傳法政喜の判示第一の所為中、一の陶勇及び二の重野俊夫に対する各共同暴行の所為、被告人植松憲二の判示第一の所為中一の陶勇に対する共同暴行の所為はいずれも暴力行為等処罰ニ関スル法律一条、刑法二〇八条、罰金等臨時措置法三条一項二号に、被告人植松憲二の判示第一の所為中、二の重野俊夫に対する共同暴行及び判示第二の暴行の各所為は、包括して暴力行為等処罰ニ関スル法律一条、刑法二〇八条、罰金等臨時措置法三条一項二号に、被告人佐々木勲の判示第一の所為中一の陶勇に対する共同暴行の所為は刑法六〇条、暴力行為等処罰ニ関スル法律一条、刑法二〇八条、罰金等臨時措置法三条一項二号に、同二の重野俊夫に対する共同暴行の所為は暴力行為等処罰ニ関スル法律一条、刑法二〇八条、罰金等臨時措置法三条一項二号に該当するので、被告人三名につきいずれも各所定刑中懲役刑を選択し、以上は各被告人につき、刑法四五条前段の併合罪であるから、いずれも同法四七条本文、一〇条により、それぞれ犯情の重い重野俊夫に対する共同暴行の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人三名をそれぞれ懲役三月に処し、情状により被告人三名に対しいずれも同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から一年間それぞれその刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文によりその三分の一ずつを各被告人に負担させることとする。

よつて、主文のとおり判決する。

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